2025年6月にスイスの非営利財団「世界経済フォーラム」から2025年版のジェンダーギャップ指数(GGI)が公表されました。
日本の「経済参画」における数値は148か国中112位であり、労働参加率や同一労働における賃金の格差など、労働分野における男女間の格差(ジェンダーギャップ)が世界的にみて大きい状態にあります。
このような状況下で、日本全体で人口が減少しています。
さらに地方では首都圏への人口流出も重なり、多くの企業では人材不足が課題となっています。このような現状から特に地方においては、労働分野におけるジェンダーギャップを解消し、性別を問わず持っている力を最大限発揮できるような環境を整備することが、企業の維持・成長のために求められています。そこで本コラムでは、地方企業におけるジェンダーギャップ解消の取り組み方について、国の認定制度である「えるぼし」や実際の事例を交えてご紹介します。
私たち地方創生・フェアネス共創研究所が目指す「どんなライフステージでも女性が輝ける地域」の実現に向けて、これからの企業のあり方について考えていきましょう。
女性活躍の推進の方法
ジェンダー(gender)とは、「身体的・生物学的特徴で区別される男性/女性」ではなく、「社会的・文化的に形成された男性/女性」という意味です。
つまりジェンダーギャップは、「身体的・生物学的特徴に起因する男女の格差」ではなく「社会的・文化的な価値観に起因する男女格差」のことを指します。
「男性/女性はこうあるべき」という価値観が無意識のうちに社会の前提となり、それに基づき様々な制度が作られた結果、ジェンダーギャップが拡大しているのです。
こうした背景の中で、女性の待遇を改善していく動きが「女性活躍」と表現されるようになりました。
国は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、女性活躍推進法)の第一条において「女性の職業生活における活躍」を「自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性がその個性と能力を十分に発揮して職業生活において活躍すること」と定義しています。
以上から、地方創生・フェアネス共創研究所は「女性活躍推進」を「現在働いている、又は働こうと思っている女性がその個性と能力を十分に発揮して、職業生活において活躍することを目的として人々の意識改革と制度改革に取り組むこと」と定義します。
制度改革を行う上で、、一つの指標となるのが「えるぼし認定」です。
以下ではこのえるぼし認定について詳しく説明します。
「えるぼし認定」から見る女性活躍のポイント
「えるぼし認定」とは企業の女性活躍を推進するための具体的な指標として、国が推し進める認定制度となります。
女性活躍推進法に基づき一般事業主行動計画を作成し届出た事業主のうち一定の要件を満たした事業主が、都道府県労働局への申請により受けられる、厚生労働大臣からの認定のことです。
5つの認定基準があり、その要件を満たした数によって3段階のレベルに分かれます。
えるぼし認定の5つの認定基準
採用:採用、正社員における男女比
継続就業:勤続年数の男女差
労働時間等の働き方:月45時間未満の残業時間であること
管理職比率:管理職、課長級の女性の割合
多様なキャリアコース:正社員への昇格や再雇用、30歳以上の女性の正社員としての雇用の実績
3段階のえるぼし認定
えるぼし(1 段階目)
- 5つの基準のうち1つ又は2つの基準を満たしその実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。
- 満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組みの中から当該基準に関連するものを実施し、その取組みの実施状況について「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、2年以上連続してその実績が改善していること。
えるぼし(2 段階目)
- 5つの基準のうち3つ又は4つの基準を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組みの中から当該基準に関連するものを実施し、その取組みの実施状況について「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、2年以上連続してその実績が改善していること。
えるぼし(3 段階目)
- 5つの基準の全ての基準を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に 毎年公表していること。
さらに以下の条件を満たすとプラチナえるぼし認定を受けることができ、一般事業主行動計画の策定・届出が免除されます。
- 策定した一般事業主行動計画に基づく取組みを実施し、当該行動計画に定めた目標を達成したこと。
- 男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること。(※)
- プラチナえるぼしの管理職比率、労働時間等の5つの基準の全てを満たしていること(※)
- 女性活躍推進法に基づく情報公表項目(社内制度の概要を除く。)のうち、8項目以上を「女性の活躍推進企業データベース」で公表していること。(※)
※実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表することが必要
えるぼし認定を受けた企業は自社の商品や広告・名刺にそれぞれの段階に応じた認定マークを付すことができます。
それにより消費者や取引先に対して、自社が女性活躍推進に積極的に取り組んでいる企業であることをアピールすることができ、企業ブランディングの向上や女性採用の促進につながります。
さらに賃上げ促進税制では、企業規模ごとに定められた段階のえるぼし認定を受けると税額控除率が5%上乗せされるメリットもあります。
今後より多くの企業が「えるぼし認定」を目指し取組みを進めることで社会全体の女性活躍推進が進むことが期待されています。
えるぼし認定事例紹介:女性活躍・両立支援事例集より
本コラムでは、えるぼし認定の最高レベルである3段階目を取得した企業の事例を2社紹介します。
事例①株式会社北海道銀行
株式会社北海総銀行は職員の半数が女性職員であることをきっかけに、多くの女性職員が安心して長く働ける環境を整備することを目的として取組みを開始しました。
具体的には「労働時間等の働き方の改革」として、定時退行日、定時退行月間を整備しているほか、「ライフスタイルの変化に合わせた就業サポートとして、再雇用制度、夫婦同一地勤務制度、3歳までの育児休業期間、小学4年生までの育児短時間勤務、復職サポートセミナー等様々な社内制度を整備しています。
また、制度を整備するだけでなく、一定職層の女性職員を対象としてキャリアデザインの研修会・経営・管理職向けの研修会を実施することで今後の働き方を考えたり、キャリアアップしたりする機会を提供しています。
このような取組みの結果、社内制度の利用者の増加はもちろん「自身の努力次第で公平に評価される」という考えの浸透など文化的な側面でも良い影響がありました。
一方で、これまで企業風土として存在しなかった制度が利用されるまでには多くの苦労もありました。
対象者本人だけでなくその上司まで声かけを行ったり、経営トップから継続的に呼びかけたりするなど粘り強い取組みにより、徐々に職員にも浸透していきました。
現在は女性だけでなく男性目線での施策も実施し、性別に関係なく全ての職員が活躍できる環境づくりに取組んでいます。
事例②株式会社プラザ企画
株式会社プラザ企画では、時間外労働が多いことで、家庭と仕事の両立が難しく、結婚・出産を機に退職する女性が続出していました。
この状況を改善するため、取組みを開始しています。
具体的には、社員一人ひとりのニーズやライフステージに合わせて、7種類の働き方から選べる「社員タイプ選択制」を導入し、柔軟に働ける仕組みを整えました。
また、管理職の仕組みも見直し、年齢と性別のこだわりがあった従来の部長・課長制度を廃止し「フラット&チーム組織」に変更しました。
役割に応じてリーダーを任命する方式にしたことで、女性のリーダー登用が進み、初めての女性グループリーダー(課長級)が誕生しました。その後も継続して様々なレイヤーにおいて女性のリーダーが着実に増えています。
このような制度の整備と意識改革を続け、課題であった結婚・出産を機に退職する女性社員数は、10年間連続0名を達成しました。
まとめ
本コラムでは、「えるぼし認定」や具体的な事例を取り上げながら、企業における女性活躍の基準や推進方法について紹介してきました。
女性活躍推進において、制度整備と利用促進は両輪の関係です。
制度を整備し、社員に環境を提供することで、活用するという選択肢が生まれます。その上で、組織全体における制度理解や利用者に対する応援・協力姿勢のある組織風土が形成されることで、利用者が利用しやすい状況を生み出すことができます。
制度を整備して終わりではなく、当たり前に利用される組織文化になるまで、社員の意識改革に向けた対話などの地道な取組みが必要です。
地方創生・フェアネス研究所は、私たち自身もジェンダーギャップ解消したフェアネスな組織開発に挑戦しながら、女性活躍推進を目指す企業を応援してまいります。
出典
・「地域における男女共同参画の推進について」(内閣府男女共同参画局, 2022年2月)
・第3回新しい地方経済・生活環境創生会議「女性活躍に関する現状と取組について」(内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当)(矢田 稚子, 2025年1月25日)
・女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集 株式会社北海道銀行(金融業、保険業)(厚生労働省, 参照2025年6月27日)
・女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集 株式会社プラザ企画(宿泊業、飲食サービス業)(厚生労働省, 参照2025年6月27日)
・えるぼし認定、プラチナえるぼし認定の概要(厚生労働省, 参照2025年6月27日)
・女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)(厚生労働省, 参照2025年6月27日)
・賃上げ促進税制を強化!(経済産業省, 参照2025年6月27日)