働き方や暮らし方が多様になる中で、地域と個人の新しい関わり方として「関係人口」が注目されています。
移住によって増える「定住人口」とはどのように違うのでしょうか。
自治体は何のために取り組み、どのようにして「関係人口」を増加していくことができるのかについて、総務省の「地域おこし協力隊」や「地域活性化起業人」などの制度や事例を紹介しながら、人と地域を結ぶ新たなアプローチについて考えてみたいと思います。
「関係人口」とは、
「移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人のこと」(総務省の定義)や、
「特定の地域に継続的に多様な形で関わる者」(内閣府の定義)
などと定義され、観光以上定住未満の関わり方とも例えられます。
関係人口は趣味や自分の楽しみが関わりのきっかけである「ファンベース」の関わり方とビジネスやプロボノでの活動が関わりのきっかけである「仕事ベース」の2種類に大別されます。
多くの地方では地域づくりを担う人材の不足が大きな課題となっています。
地域の担い手が不足する中で、観光での来訪より深いかかわりを持つ「関係人口」が地域の新たな担い手となることが期待されており、総務省では地域外の人材の活用による地域活性化を目的として様々な制度の整備や事業に取り組んでいます。
【地域外の人材を活用する制度】
地域おこし協力隊:1〜3年間、都市部から地方に移住し、地域での事業立ち上げや行事の企画などを行う制度。
地域活性化起業人:都市圏の企業などで働く人材が地方自治体に派遣され、企業のノウハウを活かして地域課題に取り組む制度。
【関係人口を創出する事業】
ふるさとワーキングホリデー:主に若者が地方で一定期間働きながら暮らしを体験するプログラム。将来的な関係人口の入口として期待されています。
子どもの農山漁村交流プロジェクト:都市部の子どもたちが農村や漁村での生活を体験し、地域への理解や関心を深める取組です。
本コラムでは地域おこし協力隊、地域活性化起業人を詳しく見ていきます。
出典:「地域への新しい入口 二地域居住・関係人口ポータルサイト」(総務省, 2025/07/09参照)
地域おこし協力隊は、総務省が2009年度から実施している、都市部から過疎地域などの地方に移り住んだ「協力隊員」が、地域活動に取り組む制度です。
自治体が委嘱し、1年〜3年の任期で地域の課題解決や活性化のために活動します。
具体的な活動の例としては、農林水産業など一次産業への従事、特産物を活かした商品開発、デジタル化などの住民の生活支援、交流の場づくりなどがあります。
いきなり移住・活動を始めることのハードルが高いと感じる方向けにまずは体験してもらう仕組みも整っています。
本格的な活動を始める前に短期間活動することで地域や活動内容とのミスマッチを防ぎ、定着率を高めることが期待できます。
地域おこし協力隊制度を運用する自治体や地域おこし協力隊自身の活動をサポートする体制もあります。
地域おこし協力隊アドバイザー:制度をこれから導入したい自治体や、よりよい活用を考える自治体に向けて、経験豊富なアドバイザーを派遣します。活用方法や人材の受け入れ体制について相談が可能です。
地域おこし協力隊全国ネットワーク:全国の協力隊や自治体担当者が情報交換・交流できる場です。他地域の事例を参考にしたり、悩みを共有したりできます。
総務省の措置対象となる地域おこし協⼒隊に関する経費は以下の通りです。
「地域おこし協力隊取組ハンドブック」(総務省, 2025年3月)より作成
地域活性化起業人は主に三大都市圏*や政令市・中核市・県庁所在市に所在する企業、社団等などで働く人材を、6か月から最長3年の間地方自治体に派遣してもらい、地域の課題解決やプロジェクトに取り組んでもらう制度です。
自治体が取り組む地域課題に対して起業人ならではの専門的な知識やノウハウ、外部からの視点、人脈を活かしてもらうことで、これまでにない新しいアプローチでの活性化が期待されます。
一方で地域活性化起業人として派遣される人材については、本業とは別の、もしくは退職後の新たな社会貢献の場に出会えたり、自らのキャリアアップにつながる機会として活用が見込まれています。
※三大都市圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県及び奈良県
受け入れる人材のタイプには、企業派遣型、副業型、シニア型の3つがあります。
「地域おこし協力隊~移住・地域活性化の仕事へのチャレンジを支援します!~」(総務省, 2025/07/09参照より作成
出典:「地域活性化起業人 企業のノウハウを活かした地域活性化」(総務省, 2025/07/09参照)
本コラムでは、総務省が推進する「地域おこし協力隊」や「地域活性化起業人」などの制度を通じて、外部人材が地域と関わる仕組みとその可能性について紹介しました。
都市と地域をつなぐ存在として注目されている「関係人口」は、個人にとってはライフスタイルにおける新しい選択肢となり、地域にとっては持続可能な未来への一歩にもつながります。
多様で即戦力となる人材とのつながりは、自治体にとって視野や選択肢を広げる大きな機会となるでしょう。これらの制度の活用は単なる担い手不足の解消に留まらず、地域の未来を共に考え共に歩むパートナーとの出会いにもつながっていくかもしれません。
地方創生・フェアネス共創研究所は関係人口の増加に向けた取組を支援してまいります。
出典
・「地域への新しい入口 二地域居住・関係人口ポータルサイト」(総務省, 2025/07/09参照)
・「地域を変えていく新しい力 地域おこし協力隊」(公益財団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構, 2025/07/09参照)
・「地域おこし協力隊~移住・地域活性化の仕事へのチャレンジを支援します!~」(総務省, 2025/07/09参照)
・「地域活性化起業人~企業の社員を自治体に派遣し、地域貢献する活動を支援します!」(総務省, 2025/07/09参照)
・「地域おこし協力隊取組ハンドブック」(総務省, 2025年3月, p.7, 9, 10)
・「地域活性化起業人 企業のノウハウを活かした地域活性化」(総務省, 2025/07/09参照, p.2, 3)