近年、日本政府は「女性版骨太の方針 2024」などの政策を通じて、女性活躍推進を加速させています。特に地方においては、女性の就業率向上や起業支援が地域経済の活性化につながる重要な要素として注目されています。
私たち地方創生・フェアネス共創研究所では、これらの政策やマクロデータも踏まえながら、地域に合った取組を共創していきます。
このコラムではデータをもとに、女性の活躍が地域にもたらす経済的な効果や、その成功のカギとなる仕組みについて考えていきます。
女性の活躍が進むことは、社会にとって大きなメリットがあります。その一つが「働く人の数を増やせること」です。現代の日本では少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化しており、女性の労働参加を促進することで、この課題の緩和が期待されています。
しかし現状は下表の通り、20~50代の女性の就業率は約80%と高い水準にあるものの、30歳以降は非正規雇用割合が高い(いわゆるL字カーブ問題)状況があります。これは、女性は男性に比べて結婚や出産をきっかけに離職したりパートなどの非正規雇用に変わったりすることが多い傾向にあるためです。
この課題を解消することで労働力が確保できるだけでなく、女性の収入増加によって世帯の消費行動や住宅購入が進み、経済全体にも良い影響を与えると考えられています。
出典:ESRI・東京大学共催 政策フォーラム「女性の職業生活における活躍と経済」
東北や関東、甲信越などの地域では、若い女性の都市部への流出が進行しています。その結果、地方には男性が多く残り、未婚男性の割合が高まっていることが明らかになっています。
若い女性が地域を離れる理由は多岐にわたりますが、男女間の賃金格差もその一因と考えられています。実際、未婚者の男女比率の不均衡と地域ごとの男女賃金格差には一定の相関関係が確認されています。したがって、男女の賃金差を解消し、女性が地元で活躍できる環境を整備することは、地域の持続可能な発展のために不可欠といえるでしょう。
女性がリーダーとして活躍することで、企業の意思決定に多様な意見が取り入れられ、新しいアイデアや変化が生まれやすくなると考えられています。例えば製品や新サービスの開発の際に、これまでにない視点が加わり新しい市場を開拓できるチャンスが広がります。また、様々な人が自由に意見を出せる会社の雰囲気も醸成されていきます。
国際通貨基金(IMF)は、女性がより働きやすい社会をつくることで、経済全体の力も大きくなるとしています。日本では、女性の労働参加率をもとに計算すると、国内総生産(GDP)が現状より15〜20%も伸びる可能性があるとされています。つまり、女性の登用は企業の成長だけでなく、社会全体にも良い影響を与える重要な取り組みなのです。
生産性とは、少ない時間や資源でどれだけ多くの成果を出せるかを示すもので、経済の成長にとって大切なものです。最近の研究では、「女性の管理職が多い会社ほど生産性が高い」という関係があるとわかってきました。
一方で、「働いている女性の割合」と生産性には負の相関関係もあると言われています。ただ単に女性が働く数を増やすだけでなく、リーダーとして活躍する女性を増やすことが生産性を高めるために大切です。
出典:第3回「女性と経済」に関する勉強会 女性活躍とマクロ経済
このコラムでは、政府機関の発行するレポートや政策検討上の勉強会にて活用されているデータを通じて、女性活躍推進が地域経済にどのような効果をもたらす可能性があるかについて紹介しました。
女性活躍推進は、単に社会的公正の問題ではなく、地域経済の活性化における重要な戦略といえます。女性就業率を増やすといった単純な取組ではなく、結婚・出産を機にキャリアが中断される「L字カーブ問題」の解決や賃金格差の解消、女性管理職比率の向上等、地域特性や企業状況に応じて、効果的な施策を推進していくことが必要です。
地方創生・フェアネス共創研究所では、今後も多様なステークホルダーと連携しながら、事例研究や地域実践に積極的に取り組んでまいります。
出典
・女性活躍・男女共同参画の重点方針 2024(女性版骨太の方針 2024)
・IMF STAFF DISCUSSION NOTE Gender, Technology, and the Future of Work
・第3回「女性と経済」に関する勉強会 女性活躍とマクロ経済」令和4年9月15日 林 伴子 内閣府経済社会総合研究所次長 新村太郎 内閣府経済社会総合研究所特別研究員
・女性活躍と経済成長の好循環実現に向けた検討会「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて」内閣府男女共同参画局
・ESRI・東京大学共催 政策フォーラム 「女性の職業生活における活躍と経済」p.9 内閣府政策統括官(経済財政分析担当) 林 伴子
・「都道府県別の女性の就業状況等について」p.3 厚生労働省